”コーチのアドバイスは、本来、選手にとっては邪魔なものである”(吉井 理人 著「最高のコーチは教えない」から引用)
この一文を読んで、あなたは、どう感じましたか?10年前の僕であれば、「何で?じゃあ、コーチの意味なくないか?」と思っていたでしょう。しかし、今なら、この一文の意味が僕なりに解釈でき、おおよそ理解できます。
プロアスリートをサポートする、トレーニングコーチ(トレーナー)という職業に憧れ、この世界での仕事を目指した学生時代。そこに向かって突き進んでいった結果、幸い、自分の目標であった、プロアスリートへのサポートを経験する機会を得ました。しかし、そこで感じたのは、自分が想像していたものとは違うものでした。
プロアスリートへのトレーニング指導を行い10年以上が経ち、色々な経験を積ませていただき、冒頭の一文の意味を感覚的に理解してきたところでした。そのときに、冒頭で紹介した、元メジャーリーガーである吉井 理人 さんの書籍に出会い、これまで自分自身が感覚的に理解していたことが、言語化されていました。ここでの僕自身の学びを、しっかりとアウトプットすることで、僕自身の思考の整理はもちろん、一人でも多くのトレーニングコーチ(トレーナー)がこの理論を理解し、選手に還元して欲しいと思いました。興味がある方は、ぜひご覧ください。
10年前、僕が犯したしくじり
僕は、プロアスリートへのトレーニング指導を行いたい!という目標を学生時代に掲げており、2年間、一般の方へのパーソナルトレーニング指導の経験を経て、運にも恵まれ、2010年から、ドームアスリートハウス(以下、DAH)という、(株)ドームが運営する、プロアスリート専用のパフォーマンス開発機関に入社することができました。
今でこそ、DAHは一般の方や、学生を受け入れていますが、当時は、プロ野球、プロゴルフ、プロサッカーなど、プロアスリートしか受け入れておらず、民間企業が運営するJISSみたいな感じのものでした。プロアスリートへのトレーニング指導を目標にしていた僕にとっては、ここで働くことは、願ってもいないチャンスでした。
学生時代に、卒業後、プロになる選手のサポートをしていたり、大学トップレベルのアスリートへのサポートをしていた経験もあり、当時は、それなりに自信を持っていました。要は、プロアスリートへのトレーニング指導も、それほど遜色なく実践できるだろう!と思っていたのです。
そんな僕は、しくじります。
”このやり方が正しい・・・という思い込み”
上記したように、それなりに自信を持っていた僕は、自分がこれまで学んできた知識やスキルが正しいと思い込み、それをプロアスリートにもそのまま適応できる!と思っていたのでした。
すると、どうでしょう・・・。結果は、想像の通りです。
プロになるような選手たちは、自分たちが”こうしたい!”という想いがしっかりとあります。しかも当時のDAHは、億を稼ぐようなトッププロアスリートも多く通っていましたので、僕の言葉をそのまま受け入れるような選手はいませんでした。
また、当時の僕は、トレーニングコーチ(トレーナー)というトレーニング指導の専門家というポジションにありながら、それまでの経験から、選手のスキルに対して、「こうした方が(スポーツ科学的に)良いですよ!」みたいな伝え方をしていたりと、自分の役割を飛び越えたアドバイス(コーチング)をしようとしてしまっていました。
学生時代、”障害予防の観点から、ストレスのかかりにくいフォームはこうです”という知識を詰め込んできた僕は、それが正しく、それができないと怪我に繋がる!ということだけしか着眼点がなく、それを選手に押し付けてしまっていたのです。
しかし、どうでしょうか?
相手は、プロです。それも、億を稼ぐようなトッププロです。そういった選手自身の言葉に耳を傾けることなく、理論上良いとされることだけを一方的に伝えたところでうまくいくはずがありません。さらに言えば、それで”稼いでいる”選手に対して、トレーニングコーチになりたてで、机上の理論だけで、話をしてくる僕の言葉が響くでしょうか・・・。
そんな簡単な話ではありませんよね。僕は、1年目にこの経験をしました。そして、周りを見渡すと、メジャーリーグで、トップストレングスコーチであった友岡さん(友岡和彦さん)は、選手の言葉にしっかりと耳を傾け、必要最低限のコーチングに徹していました。
このコーチングの姿をみて、当時、こういう距離感で、接したらいいのか・・・。くらいにしか考えていませんでした。しかし、それから自分自身も経験を重ねていくうち、その理由が感覚的ではありますが理解できるようになり、経験則から自分なりのコーチングというものが見えてくるようになりました。
そして、自分なりのコーチングの立ち位置的なものが見えてきました。そんなときに、冒頭でご紹介した、吉井さんの著書と出会い、自分自身の感覚的な理解が、言語化されていました。
そのため、これは、自分の理解の整理整頓のためにも、そして、これから、自分なりのコーチングを見つけていきたい!と思っている、トレーニングコーチ(トレーナー)の人たちに、参考にしてもらうことができればと思います。
コーチングの一般理論
これからご紹介していく内容は、上記した、吉井さんの著書を読み、そこに記載されている文献を確認し、加えて、自分でも少しリサーチをしたものをまとめたものになります。
ベースになるのは、筑波大学の図子先生の”コーチング論”になります。コーチングに関する学術的な文献は他にも多くあると思いますが、僕自身が、プロアスリートへのトレーニング指導を行う際のコーチングとして、経験的にも、このコーチング論は、有効と感じました。そこで、やや捉え方には偏りがあるかもしれないですが、参考にしていただければ幸いです。
1. コーチとは?
”何らかの目的を持った人をその目的地(目標)まで確実に送り届ける役割”を担う存在
(内山 コーチの本質 体育学研究 2013)から引用
コーチとは、上記のように定義されており、これは、トレーニング指導を専門とするトレーニングコーチ(トレーナー)においても同じように定義づけることができると思います。
現場のコーチは、「ヒト、モノ、カネ、組織、情報」をコーチングを行うための資源としながら、日々、合目的的な思考・行動を繰り返しています。例えば、トレーニングコーチ (トレーナー)として、アーティストのように、トレーニング指導を行う一方で、科学者のようにエビデンスに基づいた繊細な準備を行ったり、経営者のように、選手、チームの活動資金の工面のために環境整備を行ったりすることが必要です。
これらのことから、良質なコーチング実践を行うためには、”一つの領域の専門家ではなく、各種の能力をバランスよく身につけ、目的に応じて利用できるプロフェッショナル(専門職業人)でなければならない。”と、図子は述べています。(図子 コーチング学研究 25:203-209,2012)から引用
では、実際に、どういったことを考えてコーチングを行っていけば良いのでしょうか?
2. 2つのゴールの達成を目指していくコーチング
コーチングにおける目的と行動は、2つに分類できる、と図子は述べています。(図参照)
1. スポーツ種目のパフォーマンス、すなわち競技力の向上を目的とした、【指導行動】
2. 人間としてのライフスキル、すなわち人間力の育成を目的とした、【育成行動】
このことを踏まえ、プロフェッショナル(高度専門職業人)としてコーチが目指すコーチング目的は、競技力の向上と人間力の育成という、ダブルゴールを設定すると同時に、「主役は選手であり、決してコーチではない」ことを強く認識し、【アスリートファーストの精神】を持つことが重要であると考えられています。
指導行動には、専門スポーツ種目の知識、経験、スキルが必要になるのはもちろん、トレーニング学、運動生理学、バイオメカニクス、スポーツ運動学、スポーツ栄養学、スポーツ心理学などのスポーツ科学の知識が役に立ちます。
一方で、育成行動には、心理学的、コミュニケーション、カウンセリング、教育学的、感情コントロールなどの5つ分野における関する知識、経験、スキルが役に立ちます。
これらの知識、経験、スキルを身につけていないと、勝利至上主義になったり、自らの感情をコントロールできないことで、体罰や暴言を加えてしまい、選手の心を破壊することにもつながってしまいます。
そのため、上図のような行動基軸(指導行動/育成行動)を持って、選手と関わり、アスリートとしても、そして、人間てとしても、その人の成長をサポートできるようにしていく必要があります。
まとめ
今回、トレーニングコーチ (トレーナー)向けに、コーチングについて、自分のしくじりを思い出し、それを踏まえて、学術的に定義されている理論をご紹介させていただきました。
【1】良質なコーチング実践を行うためには、一つの領域の専門家ではなく、各種の能力をバランスよく身につけ、目的に応じて利用できるプロフェッショナル(専門職業人)でなければならない。
【2】コーチは、二つのゴールの目的達成のための行動基軸(指導行動/育成行動)を持つ必要がある。
これらの理論をベースにきちんと整理して持っていれば、しくじりはなかったかもしれないですが、しくじったことにより、よりコーチングの大切さというものを実感している訳でもあります。そういう意味では、このタイミングで良かったのかもしれません。
次回は、具体的なコーチングスタイルについて、ご紹介していこうと思いますので、よろしくお願い致します。
最後に
世の中に、トレーニング方法はたくさん存在しています。これらの方法を知っておくことはもちろん重要ですが、これらの効果を少しで高めるためにも、その方法穂を知っているだけでなく、どうやって、ヒト(選手、クライアント)に落とし込むのか?ということが、もっと重要であると、僕は考えています。
結局、どんな良い方法も、それを活用するのはヒトであり、それを伝える相手もヒトです。そのヒトにきちんと伝えていくことができるように、どうすべきか?と考えたときに、コーチングについてきちんと学ぶことは非常に重要だと思いました。
この部分が欠落していれば、せっかくの良質な方法論も意味のないものになってしまうでしょう。また、逆に、たとえ、イマイチな方法論でも、伝え方、コーチングが優れていれば、より高い効果を見込めるかもしれませんし、二次的な効果を見込めるかもしれません。
このように、きちんとコーチングを学問として学ぶ!ということの重要性を、この仕事を初めて、10年以上経ち、身に染みて実感しています。
そして、このコーチングは、トレーニングコーチ (トレーナー)でなくても、組織やチームにおいて、人間関係を構築していく際にも非常に有効なモノです。ぜひ、多くの人の目に触れる機会があれば嬉しいなと思います。
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