”コーチのアドバイスは、本来、選手にとっては邪魔なものである”(吉井 理人 著「最高のコーチは教えない」から引用)
この書籍に出会うことで、僕は、これまでの自分の経験の蓄積で行っていたコーチングを言語化することができました。その結果、自分自身が試行錯誤しながら進んできたことは、すでに学術的に説明されていることであり、”コーチング”を学問として学ぶことは、すごく意味のあることだと、今更ながら実感しているところです。
そういった経緯もあり、このブログでは、僕の思考を整理整頓しつつ、アウトプットしていくことで、同じように、トレーニングコーチ(トレーナー)として活動している、もしくは活動していこうとしている人たちが、”コーチング”を正しく理解し、それを選手やチームに還元して欲しいなと思いました。興味がある方は、ぜひご覧ください。
part.1はこちらから
コーチングの一般理論
前回(こちら)同様、これからご紹介していく内容は、上記した、吉井さんの著書を読み、そこに記載されている文献を確認し、加えて、自分でも少しリサーチをしたものをまとめたものになります。
ベースになるのは、筑波大学の図子先生の”コーチング論”になります。コーチングに関する学術的な文献は他にも多くあると思いますが、僕自身が、プロアスリートへのトレーニング指導を行う際のコーチングとして、経験的にも、このコーチング論は、有効と感じました。そこで、やや捉え方には偏りがあるかもしれないですが、参考にしていただければ幸いです。
1. 年齢や競技歴でコーチングしてしまっていないですか?
あなたは、これまでのコーチングの経験の中で、以下のようなことはありませんでしたか?
若手選手だから、しっかりとコーチングして指導しないと!
ベテラン選手だから、本人の意見を尊重して、任せよう!
と、年齢や競技歴だけで判断し、コーチングしてしまっていませんでしたか?
僕自身は、自分のトレーニング指導において、上記のようなコーチングに心当たりがあります。
しかし、選手の中には、若手選手であろうが、自分の考えがあり、自分の将来をしっかりと見据えて自分が、今何をすべきか?ということがはっきりしている選手もいます。一方で、ベテラン選手であっても、何をすべきか、何をしたら良いのか?が不明瞭な選手もいます。
それぞれの選手たちに、トレーニング指導者として、どういったコーチングをすべきか?ということをその時々に考えてきましたが、今回、ご紹介する、4つのコーチングスタイルは、かなりスッと腹落ちしました。あなたもぜひ、参考にしていただき、自身のコーチングに役立て見てください。
2. 4つのコーチングスタイル
前回、part.1で記載したように、【競技力の向上】と【人間力の育成】というダブルゴールを達成するという考え方は、古くから社会心理学者が提唱しているPM理論に類似しています。PM理論とは、社会心理学者の三隅氏(1978, 金井, 2007) が提唱したもので、リーダーが集団に働きかける機能には、パフォー マンスを(P; Performance function)を上げること、集団を維持すること(M ; Maintenance function)、という2つがあります。人間や組織をまとめて、利益や生産性を高めることが目的である経営学の世界には、コーチングの世界の出来事に類似した理論や方法論が多数存在している、と、図子は述べています。(図子,2014)
そして、図子は、コーチングにおいて、主体は選手・ チームであると考えているため、発育発達特性、体力的特性、技術的特性、戦術的特性、心理的特性、人間力特性などをアセスメントし,それに応じたスタイルに変更させながらコーチングしていく、【スポーツコーチング型PMモデル】が必要と述べています。(下図)
・第1ステージ 【指導型コーチングスタイル】
初心者段階の選手を対象にしたコーチングスタイル。このステージでは、コーチからのしっかりとした指導行動が必要なステージです。スポーツで言えば、技術指導を中心にしなければならない段階のことを指します。仕事で言えば、ビジネスを遂行するために、最低限必要なビジネススキルを習得させる段階と考えることができます。
・第2ステージ 【指導・育成型コーチングスタイル】
中級者段階の選手を対象にしたコーチングスタイル。このステージでは、コーチからのしっかりとした指導行動が必要であると同時に、選手のモチベーションを上げることが必要になるステージです。スポーツで言えば、技術指導をしっかりと行いつつも、自分で課題に気づかせ、その解決に向けた行動を取らせていく必要がある段階のことを指します。仕事で言えば、中堅社員がこの時期にあたり、ある程度のビジネスを遂行することはできているものの、大きな成果も出せていないこともあり、精神的にはかなり揺れ動いてしまう時期のために、コーチからのコーチングは極めて重要になる段階と考えることができます。
・第3ステージ 【育成型コーチングスタイル】
中上級者段階の選手を対象にしたコーチングスタイル。このステージでは、選手自身の技術やスキルは高く、競技力は高いが、一方で、自信とプライドが高くなっている選手が多くなっています。精神的に未熟なため、技術的な指導をするとへそを曲げてしまい、信頼関係が崩壊してしまう恐れがあります。そのため、練習の仕方や社会においてどうあるべきか、といった育成行動を中心に指導していく必要がある段階のことを指します。仕事で言えば、完全にマネジメントクラスには入れていない、主任やチームリーダーの役割を担う時期にあたります。コーチとしては、かなり気を使うことが多くなり、選手にも振り回されることもあり、コーチとしては、気を使う時期になると考えることができます。
・第4ステージ 【パートナーシップ型コーチングスタイル】
上級者段階の選手を対象にしたコーチングスタイル。このステージでは、選手自身の競技力が高いことはもちろん、精神的にも成熟していることが多くなります。そのため、コーチはほとんどやることはなく、ただ、選手を見ていれば良い(笑)というステージになります。このステージの選手は本当に一握りの選手しかいないですが、吉井理人氏が著書で記載されていたように、ダルビッシュ選手は、そんな選手の一人だと僕自身も、当時感じました。(というか、僕はほとんど担当することはなかったですが、、、そばで見ていて、そう感じました苦笑)しかし、そんな距離感だったのですが、突然、質問をぶつけられたり、ストレッチをして欲しい!と言われたりすることがあったので、よく観察しておいて、その要望に答えることができる準備をしておかないといけないといけませんでした。
実は、このステージの選手に1年間帯同しました。それが、皆川賢太郎選手です。ここでの話は、また、別の機会にご紹介できればと思いますが、まさに、ダルビッシュ選手同様、こちらが周到な準備をして行いといけない!と感じさせらた1年であり、僕が一番、変わることができた1年でした。トレーニングコーチとしては、実際、やることはほとんどないステージではあるので、適当にできるか?と思われると思うのですが、選手のリクエストに必要な答えやヒントを持てていないといけない!という意味では本当の意味での力を試されているようで、日々、緊張感のある時間を過ごしていました。
以上の4つのコーチングスタイルを頭の中に入れておきながら、選手の状況、ステージに基づき、コーチング、そして、トレーニングサポートを行っていく必要があります。実際には、この4つのステージに選手がきれいに分類分けされている訳ではないので、選手の様子を見ながら、状況に応じたコーチング、声かけが必要になると、僕は考えています。
まとめ
今回、4つのコーチングスタイルについてご紹介しました。実際に、僕自身が、現場でトレーニング指導をする際に、選手がどのステージにいるのか?ということを、今まで感覚的に測っていたものを、言語化され、整理されていたので、僕個人としては、非常にすっきりと理解できました。あなたの整理整頓にも活用できていれば幸いです。
【1】選手やチームのトレーニング指導を行う際、年齢や競技歴でコーチングしてしまわないこと。
【2】選手が滞留するステージを見極めて、適切なコーチングスタイルを適応すること。
学術的な背景に基づき、自身のコーチングフィロソフィを明確化していくことは、より質の高いコーチングへと繋げていくと思います。そうすることで、選手やチームが良い方向へと変化していくのを手助けすることができるはずだと、僕は思っています。
今回ご紹介した、4つのコーチングスタイルはプロフェッショナルコーチのためのものです。そのため、次回は、”プロフェッショルとは?”ということについて、ご紹介していこうと思いますので、よろしくお願い致します。
最後に
この4つのコーチングスタイルを学ぶことで、僕の頭の整理は随分と進みました。プロアスリートへのトレーニング指導を長年行う中で、”なぜ、この選手は、こんなに自分で色々と考えることができているのだろう”と思う一方で、”この選手はいつまで経っても、自分に必要なことに気づかないな”などと感じきました。
その当時は、若いからそんなものかな、とか、競技力が低いからかな、とか色々と考えていました。しかし、こうしたネガティブな印象を持ったとしても、その選手は、プロとして、競技力をあげたいと思っていますし、試合に出たい、もっと稼げるようになりたい、と思っている訳です。
しかしながら、そんな彼らの周りにいるコーチングスタッフ(自分も含め)は、若いから仕方ない、競技力が低いから仕方ない、と、硬直したマインド(偏見)で見てしまっていたことに気づくことができました。彼ができないのではなく、変わるために必要なコーチングを周りができていない、だけなのかもしれないと思いました。
プロ野球の故・野村監督は、当時、”野村再生工場”と言われていました。おそらく、野村監督は、周りから諦められてしまった選手たちに対して、柔軟なマインド(ゼロベース)で観察し、その選手のステージに応じたコーチングを行うことで、選手のパフォーマンスを引出したのではないかと思います。
あいつには才能がない、レベルが低い、人間性が低い、と決めつけることは非常に簡単ですが、”なぜ、この選手はこのような状況になっているのだろう?”と、少し視点を変えて考えることができれば、きっとポジティブな変化に繋がるのではないかと思いました。
そのために必要なことは、日々の選手の行動や言動などをしっかりと観察することにあると、僕は思っています。ちょっとした変化に気づく親のように、選手に対して、親身になりつつも、成長するためにトライさせるなど、遠近の距離感をうまく活用しながらコーチングすることが本当に必要なことだなと、改めて実感しています。
あなたは、選手のことを、どのくらい、しっかりと観察できていますか??
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